8月7日(水)、8日(木)の2日間、岐阜県岐阜市内で「第60回全国栄養教諭・学校栄養職員研究大会」が開催されました。
8月8日(木)には単独調理場や個別的な相談指導、衛生管理など各テーマに分かれて研究発表、協議が行われる分科会が開催されました。各分科会ともに3名の栄養教諭が取り組みの発表をしていました。私たちは第1・第3・第4・第5分科会に参加してきましたので紹介します。
第1分科会
~単独調理場~
研究主題:単独実施校における食に関する指導の進め方
・岐阜県山県市立富岡小学校 栄養教諭 清水 八千穂 様
当該の小学校では食に対して興味関心の低い児童へ、自分で食べる量を決定し時間内に食べきることができるようにしました。少量から食べ始めること、食べきることができると認め励まし、食事量を増加させた事例を紹介していました。また、全校生徒がランチルームで食事をとるという特性から、食堂にある時計の配置変更等、環境整備を行い時間内に完食できる児童を増やす取り組みなどを行っていました。
・福島県新地町立新地小学校 栄養教諭 小泉 弘子 様
こちらでは、『さ(魚)わ(和食)や(野菜)か(海藻)だ(だし・大豆)』という東京家政学院大学の原教授の提唱する、小児肥満の食事指導に用いられる日本型食生活推進の食事方法を児童に定着させるため、各学年で取り組まれている食に関する指導についてお話しいただきました。また以下URLの新地町教育委員会ホームページに原教授の講演がアップロードされております。
・滋賀県蒲生郡日野町立日野小学校 栄養教諭 奥野 明美 様
さらにこちらの学校では、地元の特産の野菜(日野菜)を栽培し、調理を行ったり、伝統の漆器である『日野椀』を購入し、家庭科の学習の中で使用していたりと、掲題の達成に向けて取り組まれていました。
それぞれの学校で現状の課題に応じて、どのような食に関する指導が行われているか伺うことができました。また、食に対する意識の差があることに課題を感じてみえたり、地元の食材の活用に力を入れていたりする点で共通項があるようでした。
第3分科会
~特別支援学校~
研究主題:障害のある児童生徒一人一人に応じた食に関する指導の進め方
・岐阜県立岐阜盲学校 栄養教諭 伊藤 加奈子 様
視覚障がいのある児童・生徒のための学校です。視覚障がいのある児童は食材を見たり、触ったりする経験が少ない傾向があり、野菜の形を知らないなどの情報不足の状態が多いそうです。そこで野菜を実際に触ること、香りをかぐことで視覚以外の感覚を刺激して野菜に親しみを持ってもらったようです。
また生徒の発達段階に応じた食事を提供できているか食生活チェック表を作成し、その内容を各学部、家庭で共有をし、課題の確認をしたそうです。
・熊本県立熊本聾学校 栄養教諭 開美 彩都 様
聴覚障がいのある児童・生徒のための学校です。トウモロコシの皮むきの大変さを体験して、食材への興味関心を高めたそうです。自分たちが作業をした食材が給食として提供されることで、感謝をする精神をはぐくめ、教師からの反応もとても良かったそうです。
また「たこめし」、「こくらい」、「文楽ご飯」といった郷土料理を積極的に取り入れ、地場産物の活用率が50%を超えています。
・鹿児島県立加治木養護学校 栄養教諭 八木 順子 様
様々な障がい特性を持つ児童・生徒が通う学校です。食べ方の指導や介助については栄養教諭だけではなく横の連携が必要であり、言語聴覚士や理学療法士、小児歯科医など専門家の指示を受けています。
ペースト食→押しつぶし食→やわらか食→一口大→普通食という食形態の段階があり、個人の発達段階に合わせた形態が提供できているか、個別に舌圧等を測定して確認する必要があるそうです。
特別支援学校では個別に対応する必要がある児童・生徒が多く、専門的な知識が必要となる場合も少なくないようです。視覚、聴覚以外の感覚を使うことで食に対する興味関心を高める工夫があり、独自の指導方法が実践されていることが分かりました。
第4分科会
~個別的な相談指導~
研究主題:現代的な健康課題を踏まえた児童生徒への個別的な相談指導の進め方
第4分科会では、個別的な相談指導をテーマとしていました。学校給食において多く取り上げられるのが食物アレルギー対応ですが、他にも偏食のある児童生徒、スポーツをしている児童生徒など、個別な相談指導が必要な場合は多岐にわたります。
・岐阜県垂井町立不破中学校 栄養教諭 川瀬 朋美 様
・三重県亀山市立井田川小学校 栄養教諭 後藤 三枝子 様
・愛媛県松山市立石井東小学校 栄養教諭 菅 綾 様
3名による事例発表と、個別指導の進め方や連携に関しての協議が行われました。
3名とも、個別の相談指導が必要な生徒が自ら目標を設定し行動が起こせるよう支援し、担任教諭、養護教諭、時には同じクラスの生徒と連携をとることを、重要視していました。
例えば、食物アレルギー対応のため、アレルギーの研修会に学校薬剤師を講師に招き、専門的かつ実践的な内容を全教職員で受講しています。また、肥満気味の生徒に対して、特定保健指導で使うような帳票を生徒向けにアレンジし、成長期を考慮した目標をアドバイスしていました(下図参照)。
今回の取り組みを経て、さらなる連携強化を図ることや、栄養教諭のスキルによる相談指導の差が生じないように情報共有していくことが課題に挙げられました。
食に関する個別的な相談指導は、栄養教諭の資質が問われる分野だと思います。今後も、問題を抱える児童生徒一人ずつに向き合い、的確な相談指導を行う必要があります。
第5分科会
~食育推進体制~
研究主題:全教職員による食育推進体制の構築と、家庭や地域、関係団体と連携した推進体制の在り方
・岐阜県郡上市立高鷲小学校 栄養教諭 山下 由美子 様
こちらの学校では、社会科とつなげる実践を行っており、地場産物である大根の栽培体験や切干大根の工場見学を行っているそうです。自分で栽培することで、今まで大根や切干大根を残していた児童が食べることが出来るようになったそうです。
・福岡県上毛町立南吉富小学校 栄養教諭 高橋 欣子 様
こちらの学校では、学校と家庭が連携した取り組みとして、バランスの良い朝ごはんを毎日食べることが出来るように「元気がでる朝ごはん・がんばりカード」を実施しました。このカードに自己決定した目標を書き込み、3つのグループの食品を食べたかのチェックを入れました。また、学習内容を食育だよりで家庭に伝えたことで、主食・主菜・副菜を組み合わせた朝食をとっている児童の割合が19%から50%に増えたそうです。
・宮崎県日南市立油津小学校 栄養教諭 河野 美香 様
こちらの小学校では、地産地消交流給食を実施しており、児童に地域の農水産物について知ってもらい、そのよさを理解させるために、市教育委員会が農政課・JA・生産者に依頼し、栄養教諭や学校と連携しながら、献立内容の検討や生産者との交流計画を立てていました。当日は児童生徒と生産者等が会食し、農水産物についての話や、生産者の苦労や思いを話してもらい、地場産物についての理解を深める機会となっているそうです。
3校とも市内や校内での食育推進体制が構築されており、学校、家庭、地域が連携・協働して食育に取り組んでいました。食育推進体制を進めるには、栄養教諭だけではなく、全教職員の連携協力のもとの組織的な働きが必要なのだと実感しました。
お昼には毎年恒例の開催県の名産品が詰まったお弁当をいただきました。飛騨牛のすき煮や鮎の甘露煮など岐阜のグルメが並んだお弁当はとても美味しかったです。