5月26日「三重県立特別支援学校 伊賀つばさ学園」へサミット給食の取材に行ってきました。この地域は、三重県の北西部に位置し、江戸時代には、伊勢神宮への参宮者の宿場町として栄えてきました。雄大な山々に囲まれ、自然豊かな地域でもあります。
「三重県立特別支援学校 伊賀つばさ学園」は、知的障がい、肢体不自由の児童生徒が、小学部36名、中学部44名、高等部69名の計149名が通学しています。
「三重県立特別支援学校 伊賀つばさ学園」の東校長先生に、食育についてお話を伺いました。
『私たちの教育は、障がいがあっても一人の人間として尊重し、社会に出てからも、一人ひとりが豊かにそして幸せに暮らせるように、今何をするべきかを考えながら実践しています。
児童生徒の健やかな成長にとって、「食べる」という行為は、身体を成長させ、感謝の心を育て、コミュニケーションや協調性を養うなど、心身の発達に大変重要な意味があります。
本校は、児童生徒の発達段階や障がいに応じ、プロセスを重要視して生きる力を育み、食べることは楽しい事なのだと意識づけを行っています。栄養教諭の瀧先生が中心となって、とても良い環境の中、組織的に食育に取り組んでいます。』
5月26日の給食は、伊勢志摩サミット開催記念で、フランスの料理が提供されます。
26日の夜は、高等部2年生の「サミット宿泊学習」があり、皆で夕食を作りました。
午前中は、夕食の為に「買い物学習チーム」と「調理実習準備チーム」に分け、準備を行いました。
夕食のメニューは、伊勢ひじき入りしめじご飯、G7牛汁、たくあん、フルーツ、伊勢エビチップスです。
「買い物学習チーム」が、近くのスーパーへ、必要な食材を買いに行きました。
東校長のネームプレートの紐にも使用していた「伊賀組紐」は、「2016年ジュニア・サミット in 三重」のジュニア・サミット代表が使用していたものです。その伊賀組紐は、「三重県立特別支援学校 伊賀つばさ学園」の生徒が絹糸からを選び、作成したものです。
伝統的な伊賀組紐は、しっかりしたもので、とてもきれいな色でした。
現在は、企業向けに作成したり、校内のイベントの「手作り市」で販売したりしています。生徒も達成感を感じながら、とても楽しそうです。
伊賀つばさ学園のサミット給食は、全部で12回で、1月20日から始まり、5月27日が最後のメニューとなります。
これまでのサミット給食のいくつかをご紹介します。
イギリスの料理
【セルフチーズサンド、牛乳、フィッシュ&チップス、ベジタブルスープ、ロイヤルミルクティの素】
イギリスの最もポピュラーなメニュー「フィッシュ&チップス」を取り入れました。
サンドイッチの由来も、この国の伯爵がゲームの途中でつまんだことが発祥だと言われています。
伊勢志摩の料理
【じゃこ入りゆかりご飯、牛乳、もずくと切干大根のかき揚げ、伊勢うどん】
「伊勢志摩おもてなし給食」と称した献立は、期間中全5回ありました。
この日は、独特の醤油のたれと柔らかい麺が特徴の「伊勢うどん」、特産物のちりめんじゃこやもずくを使用したメニューが登場しました。
ドイツの料理
【パン、牛乳、フランクフルト粒マスタード添え、ジャーマンポテト、ミルクスープ、バームクーヘン】
ドイツと言えば、ソーセージやフランクフルト、それにじゃがいも料理が有名です。
日本でもすっかりおなじみのバームクーヘンも、ドイツの焼き菓子です。
ドイツのパンは噛めば噛むほど味わいが増すパンが多いので、この日は弾力のある米粉パンにしました。
本日のメニュー/フランスの料理
【バターライス、ローストチキン、ボイル野菜、かぼちゃポタージュ、プチシュークリーム、飲むヨーグルト】
ホテルのメニューのようで、視覚的にも楽しめ、とても美味しかったです。
食材ごとにミキサーをかけている為、彩りがとてもきれいです。
飲み込みやすいように、とろみ材で調節をしています。
ローストチキンも、刻んだ後、きれいに形を整え直しています。調理員さんの愛情が伝わりますね。
『瀧先生の熱意が伝わり、職員全体で食育の大切さを伝えています。視覚障がいの児童生徒には何の料理を食べているのか、説明しながら給食の時間を楽しんでもらっています。』
検食簿のコメント欄をはみ出すほどの、良かった点、改善点を記入しています。元々化学の先生だったこともあり、理科学などの豆知識も書き加えてくれたりもします。瀧先生は、検食簿のコメントをもとに、調理改善を行い、食育に繋がる場合は、担任の先生を通じて児童生徒にも伝えています。
「三重県立特別支援学校 伊賀つばさ学園」給食調理員豊住さんにもお話を伺いました。
『毎食約260名の給食を、女性調理師4名で担当しています。私は、勤務して20年になりますが、食べることが大好きで、なによりも給食が大好きです。栄養教諭の瀧先生は、児童生徒が喜ぶためのアイディアが豊富で、手間で大変そうな事でも、挑戦してみるとそれ以上の喜びを得られることがあります。
児童生徒のほとんどは、揃ってランチルームで給食を食べており、食堂からの歓声や美味しそう!!という言葉が聞こえてくると、とても嬉しいです。
刻み食、ペースト食などの再調理食も1時間かけて調理しています。児童生徒に喜んでもらえるように、盛付をきれいに完成した時、とてもやりがいを感じます。』
調理員さんとアレルギー除去食、再調理食の確認を行っている様子です。
毎日の綿密な打ち合わせにより、安心安全な給食を提供する事ができます。
摂食・嚥下のメカニズムについて、調べてみました。下記の一連の流れで行われています。
①先行期:食品を視覚・聴覚などから認識し、形、堅さ、温度を判断する。
②準備期:食品を咀嚼し、飲み込みやすく加工する。
③口腔期:口腔から咽頭へ食べ物を送り込む
④咽頭期:食べ物を咽頭から食道へ送り込む。
⑤食道期:食道から胃へ食べ物を送り込む。
普段、無意識に行っている『食べる』という行為は、摂食・嚥下困難な方には、命にかかわる行為でもあるのです。
栄養教諭の瀧先生にお話を伺いました。
『私は、栄養教諭の仕事は、天職だと思ってやっています。
食育は、安全で美味しい給食が提供でき、はじめて生きるものです。まず土台となる給食が大切なのです。児童生徒に「待ち遠しい」と言われるよう、献立のポイントやねらいを担任からも伝えてもらっています。
食育や給食は、栄養教諭の所有物ではないのです。管理職の理解のもと、職員全体で考え、組織的な体制を作れるように働きかける事が重要です。
子供たちが社会に出てからも、健康で幸せに暮らしていけることをめざし、教職員間のコミュニケーションを積極的に行い、互いに協力して食育を推進しています。』
一人の栄養教諭を中心に、組織的に食育に取り組むことにより、生徒の理解度も変わってくるのだと実感しました。このような教育現場を見学させて頂き、食育はもちろんのこと、組織としての理想のあり方を学ぶことができました。
三重県立特別支援学校伊賀つばさ学園のお考えが、全国の学校給食の現場に広がり、日本の食育がより良いものになっていく事が、理想だなと思いました。
その為にも、今回、瀧先生を取材させて頂けたように、日本中でご活躍されている栄養教諭の方々を「給食ひろば」でご紹介し、皆様の刺激と活力に繋げることができたらと思っています。
取材にご協力して頂いた、「三重県立特別支援学校 伊賀つばさ学園」の皆様、ご丁寧に対応して頂き、本当にありがとうございました。